洞斎山人日乗

ゆうがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於いて文句はないのだ。

出張

 大阪に行ってきた。
 行きしなの新幹線の車中、広島岡山間でうとうとしていたら、出し抜けに車中が騒がしくなった。何事にやあらむと寝ぼけ眼を開くと、女性数名が緊張を漂わした表情でおろおろしている、車掌さんもやってきた。同行の子供が急病を発したらしい。
 車掌さんが「お子さんが急病なんですがお医者さんはいらっしゃいませんか?」と車両内のお客に呼びかけるが、この号車に該当者は居なかったらしい。あたふたと駆け出していって1分後ぐらいか、車内放送で同旨の協力要請を、今度は16両すべてのお客に向かって呼びかけた。

 こういう場面に遭遇すると、何の手助けもできないという事実だけがあぶりだされるばかりで、どうにもならないとは分っているが、もどかしくて仕様が無い。列車内に医者が居ることを祈るばかりだった。

 流石は16両の車両に8割方客を乗せている昼間の「のぞみ」だけはある。間もなく、30台後半から40代後半ぐらいのお医者二人がやってきて、診察を始めた。家族の方と車掌さんの顔に安堵の色が広がる。患者も意識は保っているらしい。

 岡山に着くと、待機していた駅職員が数人乗り込んできて、救急車を手配している旨を告げていた。あとは救急隊員が来るのを待つばかりだ。まだ安心はできない。
 やがて先乗りの救急隊員が走ってやってきて、お医者二人から説明と引継ぎを受けた。間もなく、エクステンダーを持った駅員・救急隊員もやってきて、慎重に患者を車外に異動させ、エクステンダーに乗せ、緊張の色を隠せぬ家族3名を連れて病院へと向かっていった。母親と思しい女性が、車両の中に向かってしきりに頭を下げていたのが印象的だった。

 結局岡山に余計に止まっていた時間が6分。これが長いか短いかはよく分らないが、JRの車掌さん駅員さん・お医者さん・救急隊員とも至極落ち着いたてきぱきとした対応に終始していたように見受けられたので、多分素早い対応だったのだろう。

 周りのお客は、私も含めて、ただひたすらに押し黙って事態を見守るばかり・・・・。まあ、専門的なスキルの無い観客席が騒いだって、事態を転がすことができるわけでもないんで、邪魔にならないようじっとしているのが正解だとは思う。そういや、家族や患者を励ますような、やたらに情の強い人というのは、一人も居なかったなあ。平日昼間の「のぞみ」だもんな。客の大半はビジネス客だろうから、不思議ではないな。